犬の膝蓋骨脱臼の詳細について

膝蓋骨(膝のお皿)は膝関節にあります( 参照)。膝蓋骨の機能は大腿四頭筋群の機械的効率を大きく増加させ、伸展機能を促進させることにあります。 膝蓋骨脱臼(膝蓋大腿関節の不安定)は犬における跛行の一般的な原因です。膝蓋骨脱臼は膝蓋骨が整復不可能な完全脱臼で重度の跛行を示すものから、臨床症状を伴わない軽度不安定性のものまでさまざまです。

脱臼には間欠性脱臼、外側脱臼あるいは内側脱臼、外傷性脱臼あるいは発育性脱臼と分類されます。

小型犬における先天性あるいは発育性の膝蓋骨内方脱臼は最も多く発症します。最近は大型犬における膝蓋骨脱臼も比較的よく見られるようです。

 

膝蓋骨内方脱臼に対する重症度は以下のように分類されます。

 

膝蓋骨内方脱臼の重症度分類と症状  (3:膝蓋骨脱臼の触診法 参照)

 

従来からSingletonの分類(1969)あるいはそれを改変した分類がが最も一般的に用いられています。

グレード1

膝関節を完全伸展位に保ったときに、膝蓋骨を内方に脱臼することができる。

轢音あるいは骨変形はない。

臨床症状は無いか非常に稀にしか出ない。

 

グレード2

痛みのない、スキップ様の跛行という臨床症状を伴ない、自発的な脱臼を起こす。

脛骨の内旋と飛節の外転からなる軽度の変形が発現する。

この状態は膝蓋骨と滑車の表面の軟骨の糜爛と関係したグレード3の脱臼に進行することがある。

 

グレード3

膝蓋骨は恒久性脱臼であるが、用手にて整復可能である。

より重度の骨変形が存在し、脛骨の著明な内旋と遠位大腿骨と近位脛骨がS字状に弯曲する。

浅い滑車溝が触知される。

間欠性の跛行というよりも異常なしゃがんだ歩様であると飼主は説明をする。というのは患犬は肢を半屈位で内旋させて使用するからである。

この状態はしばしば両側性である。

 

グレード4

膝蓋骨の恒久的、整復不能の脱臼である。

脛骨が矢状面に対して60°から90°回旋している。

生涯の早い時期に矯正しなければ、骨と靱帯の重度の変形が発現し、しばしば修復不可能となる。

 

小型犬における膝蓋骨外方脱臼は比較的少なく、先天的なことが多い。大型犬あるいは超大型犬における膝蓋骨外方脱臼はしばしば重度な肢の変形を伴う独特な症候群であり、予後は要注意です。

 

臨床症状と診断

 

急性外傷性膝蓋骨脱臼は内方あるいは外方に起こり、負重しない跛行と触診での痛みを伴います。それらの症状は徐々に和らぎ、慢性脱臼の動物では痛みは軽度なことが多いです。

先天性あるいは発育性膝蓋骨内方脱臼に関連する臨床症状は、脱臼の程度あるいはグレードによりさまざまでです。

グレード1の脱臼は通常の身体検査で偶然発見される所見であり、活発な運動後の跛行の原因となります。

グレード2の脱臼は間欠的な跛行の原因となります。その跛行は膝蓋骨の整復により自然に消退する。患犬は突然スキップし、肢に明らかな痛みがなく、関節を数回屈曲と伸展させ再び負重するようになります。

グレード3の膝蓋骨内方脱臼( 参照)は脛骨の外側への弯曲と内旋を伴ったより重度の骨変形がり、跛行は軽度であるか全く無いかもしれません。全く跛行の見られない老犬の一般身体検査の時にグレード3の脱臼が発見されることが多いのですが、時にグレード3の膝蓋骨内方脱臼で著明な跛行を発現することがあります。これは膝蓋骨と大腿骨滑車の内側稜の表面の進行性の軟骨糜爛( 参照)に関係しています。

グレード4の膝蓋骨内方脱臼は脛骨の著明な内旋と、著明な外側への弯曲に特徴づけられる重症の状態である。罹患した動物は蟹のような姿勢と弱々しい歩様を呈する。より重度の犬ではかろうじて歩行し、飼主の介護がなければ移動できません。

 

小型犬での膝蓋骨外方脱臼は稀に発生し、急性で痛みのある跛行の原因となります。大型犬と超大型犬ではしばしば重度な肢の変形を伴うことがあり、外反股、大腿骨頚の過度の前捻、内側広筋の低形成、大腿骨と脛骨の内側への弯曲(外反膝)、足の外旋などの特徴があります。それらの動物はしゃがんだ姿勢とぎこちない歩様を呈します。

 

身体検査法 (3:膝蓋骨脱臼の触診法 参照)

 

犬を横臥位にして膝関節の伸展時に、脛骨を内側あるいは外側に回旋させながら、親指と人さし指の間に膝蓋骨を挟み、内側あるいは外側に押します。

正常な関節では膝蓋骨はやや変位することがあるが脱臼はしません。

 

X線撮影法( 参照)

X線写真は脱臼の説明と、骨変形と変性関節疾患の程度を確定するのに有用です。間欠性脱臼の犬ではポジショニングの間に整復され、X線上は正常に見えることがあります。

治療法

続発する変形の可能性あるいは現状の病的程度により膝蓋骨脱臼は極めて様々な様相があるため、それぞれの患者に適した治療を個別的に行う必要があります。

 

膝蓋骨内方脱臼の内科・外科適応

1)成犬(小型犬)で疼痛と機能障害があれば(疼痛、機能障害となる可能性があれば)手術が推奨されます。

2)成犬(小型犬)で軽度脱臼の場合で、疼痛と機能障害が全く認められなければ経過観察を行ないます。

3)大型犬の場合には手術が推奨されます。

4)若齡犬(12ヵ月齢未満)の場合には手術が推奨されます。

上記の2)に関しては議論のあるところであり、膝蓋骨内方脱臼があれば全例で手術する獣医師もいます。しかしながら、小型犬の成犬の疼痛と機能障害の無い軽度膝蓋骨内方脱臼を外科的に治療することで、前十字靭帯断裂の可能性や膝関節炎の進行が保存的治療例よりも改善されたという報告は見当たりません。

 

膝蓋骨の不安定性に影響する要因と手術法

 膝蓋骨の不安定性に影響する要因は2つに大別される。

 A) 膝伸展機構のアライメント不良

 B) 大腿骨滑車における膝蓋骨の不安定

したがって、膝蓋骨内方脱臼の手術法はこれらを外科的に矯正することが目的となる。

手術前、手術中はこれらの異常とその対処法を常に考慮することが重要である。

 

A-1)膝関節より近位のアライメント不良

 ★大腿四頭筋(内側広筋)の軽度拘縮/内側変位

   ⇨内側広筋の解離

 ★大腿部膝関節屈筋の緊張

   ⇨膝関節屈筋の解離

 ★大腿骨遠位の内反変形

   ⇨大腿骨遠位の外反骨切り術

 ★股関節の外旋/外転

   ⇨大腿直筋の転移術?

 ★大腿骨頭の後傾

   ⇨大腿骨の減捻骨切り術

 

A-2)膝関節より遠位のアライメント不良

 ★脛骨粗面の位置異常

   ⇨脛骨粗面転移術

 ★脛骨近位の内反変形

   ⇨脛骨近位の外反骨切り術

 

B)大腿骨滑車における膝蓋骨の不安定

 膝蓋骨の不安定は以下の2つの状態が存在する。

   1)膝蓋骨と滑車溝の「かみ合い」が悪い場合

      :屈曲を開始する時点で膝蓋骨が滑車内にしっかりとかみ合わなければ、

       屈曲を始めた比較的早い時点で膝蓋骨が内側に脱臼する。

   2)膝蓋骨を滑車内に保持できない場合

      :屈曲を開始する時点で膝蓋骨が滑車内にかみ合っているにも

       かかわらず、屈曲が進に従い膝蓋骨が内側に脱臼する。

 ★浅い滑車溝

     ⇨滑車溝形成術 Trochlear sulcoplasty

     ⇨滑車後退形成術 Recession trochleoplasty

     ⇨滑車軟骨下骨削掘術 Trochlear chondroplasty

 ★膝蓋骨の外側の軟部組織の緩み

   ⇨外側支帯の縫縮術

   ⇨外側ファベラ-膝蓋靱帯の縫合(膝蓋骨の外側への牽引)

        Stader 法(大腿筋膜)

        Rudy 法(非吸収性縫合糸)

   ⇨大腿二頭筋Overlap

   ⇨外側関節包縫縮術

 ★膝蓋骨の内側の軟部組織の拘縮

   ⇨内側広筋の解離

   ⇨内側支帯の解離

   ⇨関節包の解離

 ★脛骨の過度の内旋

   ⇨外側ファベラ-脛骨結節の縫合(脛骨内旋防止)

 ★大腿直筋の拘縮

   ⇨大腿直筋の延長/転移術

 ★大腿部膝屈筋の拘縮

   ⇨屈筋腱の解離